建物に作用する力には、建物自体や家具等の「長期荷重」と、地震や風圧・積雪等の「短期荷重」があります。これらの力に対する対抗性を「構造耐力」といいます。
上からの荷重には、構造部材と接合部の強度が重要です。さらに水平にかかる力に対して十分に対抗できる剛性が床や耐力壁等には必要になります。地震力に対しては、さらに力を分散させて受け止める靭性(粘り強さ)と構造物(住宅)全体としての耐力が求められます。
プレハブ住宅では、これらのさまざまな荷重に対して、工法や構造に応じた構造計算手法や実験を行い、安全性を繰り返し確認しています。
性能表示制度の構造の安定に関しては表の7項目が表示性能として定められています。耐震等級については等級1が建築基準法に定める条件を満足するレベルで、3等級はその1.5倍までの荷重に耐えられるもの、等級2は等級1と等級3の中間レベルです。
項目 | 内容 | 等級 |
---|---|---|
耐震等級(倒壊防止) | 地震に対する構造躯体の倒壊、崩壊のしにくさ | 3・2・1 |
耐震等級(損傷防止) | 地震に対する構造躯体の損傷の生じにくさ | 3・2・1 |
その他の地震対策 | 免震建築物とすることによる地震対策 | - |
耐風等級 | 暴風に対する構造躯体の倒壊、崩壊のしにくさ及び損傷の生じにくさ | 2・1 |
耐雪等級 | 屋根の積雪に対する構造躯体の倒壊、崩壊のしにくさ及び損傷の生じにくさ | 2・1 |
地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法 | 地盤又は杭に見込んでいる常時作用する荷重に抵抗し得る力の大きさ及びその抵抗力の設定の根拠となった方法 | - |
基礎の構造方法及び形式 | 直接基礎の構造方法及び形式又は杭基礎の杭種、杭径及び長さ | - |
耐風等級、耐雪等級の意味は、等級1は建築基準法に定める条件で損傷がなく、さらに、より大きい力が加わっても倒壊・崩壊しないレベル、等級2は建築基準法が想定する外力以上でも損傷・倒壊・崩壊しないことが求められています。
性能表示制度を利用したプレハブ住宅では、耐震等級について倒壊等防止・破損防止とも90%近くが最高レベルである等級3を取得しており、優れた耐震性能を確保していることがわかります。
また地盤支持力やその設定方法、基礎の構造方法や形式などは等級表示ではなく、その数値や方法などを表示することになっています。
平成7年1月17日におきた阪神・淡路大震災では、住宅被害が39万棟余り、うち全壊10万棟という大きな被害が発生しました。
協会の会員各社が実施した調査では、災害救助法指定の地域におけるプレハブ住宅の供給実績は各社の合計で10万7,723棟でしたが、被害は全・半壊ゼロ、地盤の移動による被害や隣棟倒壊による損傷を含む補修を要する軽微な被害などの合計は全体の約10%でした。
プレハブ住宅では、この震災におけるさまざまな調査データをもとに実大構造実験を行うなど、更に高い耐震性を確保すべく、技術開発を行っていきます。
構造躯体や基礎をどれほど強固にしても、地盤を無視して建てていれば、結果的に強い住まいはできません。地盤の性質に適した基礎形状こそ耐震設計の第一歩です。
プレハブ住宅では建築に取りかかる前に、お客様の敷地ひとつひとつの環境調査、来歴調査などを実施し、その上で、スウェーデン式サウンディングなどによるしっかりとした地盤調査を行い、敷地ごとに最適な基礎づくりを行います。
平成19年4月から、品確法の構造の安定に関する性能表示項目として、免震建築物とすることによる地震対策が加えられます。プレハブ住宅では早くから免震・制震装置を組込んだ耐震性能の高い住宅の開発・供給に努めてきました。戸建住宅ではコスト面での制約もあって実際の供給数はまだそれほど多くはありませんが、今後より一層の技術開発とコスト低減による免震・制震住宅の供給に努めてまいります。
実大振動実験
免震装置の例
通常、木造住宅が燃焼すると1,200℃に達するとされています。この時3m離れた隣家が受ける熱は、830℃にもなります。もらい火を受けないためには、もし隣家が火事になったとしても我が家の外壁が最高で830℃になる加熱に耐えられること、そしてその時の外壁裏面温度が、木材の着火可能温度である260℃を超えないことが必要です。
性能表示制度では、これらの温度条件を外壁等の延焼の恐れのある部分(外壁間の中心線、隣地境界線または道路中心線から1階では3m、2階以上では5mの部分)でどの位の時間耐えられるかによって、等級1から等級4までの区分を行っています。
項目 | 内容 | 等級 |
---|---|---|
耐火等級 (延焼の恐れのある部分(開口部以外)) |
火熱を遮る時間が60分相当以上 | 等級4 |
火熱を遮る時間が45分相当以上 | 等級3 | |
火熱を遮る時間が20分相当以上 | 等級2 | |
その他 | 等級1 |
プレハブ住宅では、構造・工法に応じたさまざまな外壁材料を採用していますが、自社や公的試験機関で防火実験を行うなど、これらの厳しい基準をクリアーし、優れた防火性能を確保するための努力を続けています。
実大火災実験
壁用防耐火試験炉
外装材耐火イメージ
火災が発生した際、カーテンやカーペットなどに着火した炎は、初めの頃はゆるやかに火勢を増していきますが、燃焼はまだ室内の一部にとどまっています。やがて炎が天井に達すると、可燃性のガスが室内に充満し、一定の温度と濃度に達した時点で爆発を起こしたように一気に燃え広がります。これをフラッシュオーバーといいます。
統計によれば、通報を受けた消防車が、現場に到着し消火活動を始めるまでの時間は、83%が15分以内です。火災の被害を最小限にくいとめるためには、このフラッシュオーバーを起こさないように室内を不燃化し、火災の初期拡大を防止することが重要となります。
プレハブ住宅では室内の壁や天井の室内面に石膏ボードを貼ったり、構造によっては壁内部にファイアーストップ材を設けるなどして火災の広がりを抑える工夫をしています。
性能表示制度では延焼の恐れのある部分の開口部も評価項目に含まれています。等級1は開口部に通常のアルミサッシなどを用いたもの。等級2では網入りガラスなどの防火サッシとするか、スチールかステンレス素材のシャッターや雨戸を設ける必要があります。
等級3は一般的な戸建住宅ではほとんど要求されないレベルの仕様です。
また開口部の防火性能を高めるだけでなく、開口部上部には上階への類焼防止効果のあるバルコニーを設けるなど、プラン上でもさまざまな配慮を行います。
項目 | 内容 | 等級 |
---|---|---|
耐火等級 (延焼の恐れのある部分(開口部)) |
火炎を遮る時間が60分相当以上 | 等級3 |
火炎を遮る時間が20分相当以上 | 等級2 | |
その他 | 等級1 |
火災で被害に合う方には、高齢者や病人、身体の不自由な方が多く、被害が大きくなりやすい時間は深夜が目立ちます。これは逃げ遅れてしまうことが主な原因です。
このため、消防法の改正により新築住宅には、平成18年6月から全ての寝室と寝室がある階の階段・廊下に感知警報装置の設置が義務付けられました。
性能表示制度では火災を早期発見するため、感知警報装置設置の等級も設けられています。
熱や煙を感知して作動する感知器や警報装置の設置場所や設置台数によって、等級1から等級4までの4段階で評価され、等級4では全ての台所及び居室・階段・廊下に感知器を設置し、建物のどこにいても警報が伝わるような措置が要求されます。
また、早期発見と同時に避難経路を確保することも重要です。性能表示制度では3階建の脱出対策として、直通階段に直接通ずるバルコニーや避難梯子などの、避難器具の設置の有無が評価されます。
プレハブ住宅では通常の歩行経路が確保できないような緊急時でも、入居者が安全に脱出できるように、最高等級4にも対応できる感知警報装置や避難器具を用意しています。
年間を通じて降水量が多く、湿度も高い日本。この気候条件は木造住宅の土台や柱を腐らせたり、鉄骨住宅の構造体に錆を発生させて強度や耐久性を低下させてしまいます。
阪神・淡路大震災で倒壊した住宅の多くは、腐朽による木材の劣化や、錆による鉄骨の強度劣化がその原因のひとつであると言われています。
また、日本の住宅の寿命は欧米に比べて非常に短いものとなっています。これは物理的耐久性の問題ではなく、居住水準(平均の延べ床面積)や生活様式の変化が原因と言われていますが、今後それらの問題が解決されたとしても、欧米並みの住宅寿命を確保するためには、ますます構造躯体の物理的耐久性の向上が求められます。
プレハブ住宅では2世代、3世代にわたり長くお住まいいただけるために、構造躯体等の耐久性を高めるためのさまざまな技術開発を進めています。
プレハブ住宅の耐久性上の特徴は、木材の防腐処理や鋼材の防錆処理などを工場で行っていることです。そのため現場処理が難しい接合部などの耐久処理も万全です。これらは、プレハブ住宅各社の工場品質管理基準により、厳しくチェックされ、その性能を何年にもわたって維持できる高い耐久レベルとなっています。
性能表示制度では構造躯体等に使用する材料の交換など、大規模な改修工事を必要とするまでの期間を伸張するため必要な対策の程度として、劣化対策等級が定められています。性能表示制度を利用したプレハブ住宅では、最高等級である構造躯体が3世代(75〜90年)もつ程度の対策等級3を取得している率が95.5%と高い比率になっています。
項目 | 内容 | 等級 |
---|---|---|
劣化対策等級 (構造躯体) |
通常想定される自然条件や維持管理の条件下で、改修時期を約75〜90年まで伸長させる対策 | 等級3 |
等級3と同じ条件下で、改修時期を約50〜60年まで伸長させる対策 | 等級2 | |
建築基準法に定める対策 | 等級1 |
鋼材の赤サビは、鉄の酸化によって発生します。鉄の酸化は水や空気中の酸素と結びついて起きる現象で、放っておくと腐食はさらに内部へと進行します。これを防止するため鉄鋼系のプレハブ住宅では、工場にて鋼材の表面を電気亜鉛メッキや電着塗装等による防錆塗料の膜でおおう防錆処理を施します。
木材が腐朽する原因は、腐朽菌による腐朽、シロアリによる食害等があります。いずれも適当な温度と湿度がそろうと繁殖するため、先ず第一に湿気対策が必要です。木質系のプレハブ住宅では木材の含水率管理を徹底し、主要な木材には工場生産段階で塗布、浸漬や加圧注入などにより防腐・防蟻薬剤処理を施します。
また、頑丈な鉄筋コンクリート造も、鉄筋に錆が発生するとコンクリートにひび割れが生じ、構造耐力が低下してしまいます。鉄筋が錆びる要因は、コンクリートの中性化です。打設時のコンクリートはアルカリ性の物質で、内部に埋め込まれた鉄筋の酸化を防ぐ役割を果たしています。ところが空気中の炭酸ガスに反応して中性化が進むと、鉄筋の防錆効果が失われてしまうわけです。コンクリート系のプレハブ住宅ではコンクリートの調合設計と管理を徹底し、中性化が遅く、有害物質を含まない良質なコンクリートを実現しています。
鉄骨の防錆処理
高い防錆技術による3層防錆処理を行う
木材の防腐処置
薬剤が木材に十分浸透するように加圧注入処理を行う
コンクリートの促進耐久性試験
紫の部分はアルカリ性を保持しており中性化していないことを示している
建物は、構造躯体などの比較的耐用年数が長い部分と、配管や内外装などの短い部分とが組み合わされて出来ています。
耐用年数が短い部分は、日常の点検、補修などの維持管理を容易にするための対策がより重要となります。
性能表示制度では給排水管、ガス管の日常の維持管理に対する対策について維持管理対策等級が定められていますが、性能表示制度を利用したプレハブ住宅では等級3が99%に達しています。
項目 | 内容 | 等級 |
---|---|---|
維持管理 対策等級(専用配管) |
構造躯体と仕上げ材を傷めずに配管の維持管理ができる | 等級3 |
構造躯体を傷めずに配管の維持管理ができる | 等級2 | |
その他 | 等級1 |
また、共同住宅における共用排水管については、更新が容易な位置への設置にも配慮しています。
日本はエネルギー資源の中心である化石燃料の大半を輸入に頼っており、エネルギーの安定的確保が大きな課題とされています。加えて、温室効果ガス排出削減のための国際的な枠組みである「パリ協定」の発効を踏まえ、地球温暖化対策計画において、2030 年度の温室効果ガス排出量を2013 年度と比較して26.0%削減する中期目標が掲げられています。
このような状況の中、家庭・業務部門として分類される住宅・建築物で消費されるエネルギー量は、2030 年度のエネルギー消費量を2013 年度と比較して約2割削減することが求められており、住宅・建築物の省エネルギー性能の向上を図ることは喫緊の課題となっている。となっています。
省エネルギー基準は、昭和55年に初めて省エネ法で制定され、その後平成4年に「新省エネ基準」、平成11年に「次世代省エネ基準」へ時代と共に、求められる基準は厳しく改正されてきました。
平成25年にも省エネ基準が改正されました。これまで外皮の断熱性の基準のみでしたが、平成25年基準では、住宅で使用する設備を含めた一次エネルギー消費量を尺度とした総合的な省エネ性能を評価する基準が加わりました。これまでは、建物を断熱することで快適性の向上や暖冷房の節約に寄与してきましたが、暖冷房設備の性能や、キッチンや浴室で使用する給湯器や照明等による取組もエネルギー削減に大きく関係することから、省エネ基準の対象となっています。
また、平成27年7月には、住宅・建築物の省エネに関する新たな法律「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が公布され、誘導措置等は平成28年4月、規制措置が平成29年4月に施行され、令和元年5月に改正「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が公布されました。
プレハブ住宅では、これらの新しい省エネ基準も含めて常に時代の流れに対応し、住宅の断熱性能を向上させ、最新の高効率設備や創エネ設備を導入するなど、省エネ住宅の普及に努めてまいりました。省エネ住宅は、単にエネルギーの削減だけを目的とせず、夏の暑さや冬の寒さの中でも、快適な暮らしを提供します。
住宅性能表示制度を利用したプレハブ住宅では、快適な暮らしを実現する最高等級の省エネ対策等級4(現・断熱等性能等級4及びH28年建築物省エネ基準に相当)を取得している割合が戸建で99%にも達しています。
高断熱・高気密住宅の例
壁断熱の例
エネルギー効率の高い給湯器、暖冷房設備、照明などの住宅設備に加え、エネルギーを創り出す太陽光発電システム、エネルギーを貯めておく蓄電池システムなどを積極的に採用し、より優れた省エネルギー住宅を推進しています。さらに、これらの設備をネットワーク化し、機器の自動制御と使用エネルギーの「見える化」を行うHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を導入することによりエネルギーの最適利用も進めています。
またこれらの省エネ住宅に、省CO2対策として、木材の利用や節水対策、ヒートアイランド対策等を行うことで、「低炭素建築物基準」を満たすことも可能です。低炭素建築物基準は、省エネルギー基準よりも一次エネルギー消費量の削減が1割ほど厳しい基準に、低炭素化の対策を加えた基準となっています。プレハブ住宅では、この低炭素建築物基準や、性能表示制度において、低炭素建築物基準相当である一次エネルギー消費量等級の最高等級の等級5にも対応可能です。
リチウムイオン蓄電池の例
ホームエネルギーマネジメントシステム【HEMS】の例
エネルギー基本計画において「住宅については、2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現を目指す」とされています。
プレハブ建築協会においては、「エコアクション2020」において、新築戸建住宅のZEHの開発・供給を推進し、新築戸建住宅のZEH供給率70%、居住段階におけるCO2排出量を2010年比戸当り60%削減を目標に掲げています。
ZEHとは、住宅の年間の一次エネルギー消費量を、高断熱化や高性能な設備などを導入することで、正味(ネット)でゼロを目指す住宅をいいます。
図 ZEHなどの省エネ住宅の例
持家系の居住水準(平均の延べ床面積)は、 昭和30年代以降の高度成長経済から平成の初期までは着実に向上してきました。特に戸建プレハブ住宅の延べ床面積は、平成6年以降140㎡を超え、現在は横ばいから若干右肩下がりに転じているものの、国の一般型誘導居住面積水準である125㎡(4人家族)や、全体平均を大きく上回っています。
多様化するライフスタイルに対応し長く住んでいただくためには、まず十分な広さを確保することが必要です。プレハブ住宅ではお客様の敷地状況や家族構成などに応じて、ゆとりある空間を提供できるようさまざまな提案をしていきます。
ライフスタイルやライフステージの変化に柔軟に対応するための条件の二つ目は、リフォームやリニューアルが容易にできる仕組みがあることです。最近はこの仕組みを持った住宅として「SI住宅」が提案されています。「SI住宅」とは、住宅を構造躯体のS(スケルトン)部分と内装・外装・設備などのI(インフィル)部分に分け、S部分を強固な造りで出来る限り長持ちさせ、I部分を可能な限り自由に変更できるようにしたシステムの住宅です。この考え方はRC造の集合住宅で一般的に採用され始めています。戸建住宅の場合は完全にSとIを分離した住宅の提案は行われていませんが、優れた構造耐力をベースに構造躯体で囲まれる居住空間を出来る限り広くとり、必要な時に取りはずして間取りの変更が出来るような「可変住宅」の提案はすでに数多く見られます。
プレハブ住宅では、物理的耐久性の更なる向上と交換し易い部品開発などにより、SI住宅の開発にも積極的に取り組みます。